38. Avo/Administrate/Trestle: Rails製管理画面gemの比較と選択
はじめに
多くのWebアプリケーションでは、開発者や運用者がデータを管理するための管理画面が必要です。これをゼロから作るのは手間がかかりますが、Railsのエコシステムには、管理画面を素早く構築するための優れたgemが多数存在します。
これらのgemを使えば、モデルのCRUD(作成、読み取り、更新、削除)操作、検索、フィルタリング、ダッシュボード機能などを、わずかなコードで実現できます。
本記事では、現在人気のある3つの管理画面生成gem、Avo、Administrate、Trestleについて、それぞれの特徴、長所・短所を比較し、プロジェクトに合ったgemを選ぶための指針を示します。
この記事で学べること
- Avo, Administrate, Trestleの基本的な特徴とコンセプト
- 各gemのカスタマイズ性と学習コストの比較
- プロジェクトの要件(シンプルさ、柔軟性、モダンさ)に応じた最適なgemの選択
1. Avo
Avo は、比較的新しいモダンな管理画面フレームワークです。設定より規約(CoC)の考え方を重視しつつ、高いカスタマイズ性を提供することを目指しています。有償プランもありますが、基本的な機能は無償で利用できます。
特徴
- リソースベースの設定: モデルごとに
Avo::Resource
クラスを作成し、フィールド、アクション、フィルタをRubyのコードで定義します。 - モダンなUI: Tailwind CSSをベースにした、洗練された美しいUIが特徴です。
- 高機能: ダッシュボード、カスタムツール、カードなど、単なるCRUDにとどまらない豊富な機能を提供します。
- 活発な開発: 開発が非常に活発で、新機能が頻繁に追加されます。
app/avo/resources/post_resource.rb (Avoの例)
class PostResource < Avo::BaseResource
self.title = :title
self.includes = [:user]
field :id, as: :id
field :title, as: :text, required: true
field :body, as: :trix, placeholder: 'Enter text'
field :user, as: :belongs_to
end
長所
- 見た目とUXが良い: デフォルトのままでも非常に見栄えが良い。
- 柔軟性と拡張性: カスタムフィールドやカスタムツールの作成が容易で、複雑な要件にも対応しやすい。
- 多機能: ダッシュボード機能が標準で強力。
短所
- 学習コスト: 他のgemに比べて覚えるべき概念が多い。
- 有償プラン: 全機能を利用するには有償プラン(Pro)が必要。
2. Administrate
Administrate は、Thoughtbot社によって開発された、シンプルさとカスタマイズのしやすさのバランスを重視したgemです。Rails開発者にとって直感的に理解しやすい設計になっています。
特徴
- ダッシュボードとコントローラ: モデルごとに
FooDashboard
とAdmin::FoosController
が生成されます。 - ダッシュボードでの設定:
FooDashboard
クラスで、管理画面に表示する属性やその表示形式を定義します。 - シンプルな思想: 過度なDSL(ドメイン固有言語)を避け、通常のRailsのコントローラやビューを上書きすることでカスタマイズを行います。
app/dashboards/post_dashboard.rb (Administrateの例)
class PostDashboard < Administrate::BaseDashboard
ATTRIBUTE_TYPES = {
id: Field::Number,
title: Field::String,
body: Field::Text,
user: Field::BelongsTo,
created_at: Field::DateTime,
updated_at: Field::DateTime,
}.freeze
COLLECTION_ATTRIBUTES = [:id, :title, :user].freeze # 一覧ページ
SHOW_PAGE_ATTRIBUTES = [:id, :title, :user, :body].freeze # 詳細ページ
FORM_ATTRIBUTES = [:title, :body, :user].freeze # フォーム
end
長所
- Railsライク: Rails開発者であれば、カスタマイズの方法を推測しやすい。
- シンプル: 覚えるべき独自の概念が少ない。
- 安定性: 長い間開発されており、安定しています。
短所
- UIが少し古い: デフォルトのUIはAvoに比べるとシンプル(悪く言えば古風)。
- 柔軟性の限界: 非常に複雑なカスタムロジックを実装しようとすると、コードが煩雑になることがある。
3. Trestle
Trestle は、設定用のDSLに重点を置き、最小限のコードで素早く管理画面を構築することを目指したgemです。ActiveAdminの思想に似ていますが、よりモダンで軽量です。
特徴
- DSLベースの設定:
app/admin/foos_admin.rb
というファイルに、DSLを使ってテーブルのカラム、フォームのフィールド、スコープなどを定義します。 - 設定の集約: 1つの設定ファイルに、そのリソースに関するすべての管理画面設定を記述します。
- 軽量: 他のgemに比べて依存性が少なく、軽量です。
app/admin/posts_admin.rb (Trestleの例)
Trestle.resource(:posts) do
menu do
item :posts, icon: "fa fa-star"
end
table do
column :id
column :title
column :user
actions
end
form do |post|
text_field :title
editor :body
belongs_to :user
end
end
長所
- 高速な開発: シンプルなCRUDであれば、非常に少ないコード量で構築できる。
- 直感的: DSLが分かりやすく、何をしているか把握しやすい。
短所
- DSLの学習: Trestle独自のDSLを学ぶ必要がある。
- カスタマイズの制約: DSLでカバーされていない複雑なカスタマイズは、他のgemより難しい場合がある。
- 開発の停滞: 近年、開発のペースがやや落ちているように見える。
比較と選び方
Avo | Administrate | Trestle | |
---|---|---|---|
コンセプト | モダンなUIと高い柔軟性 | Railsライクなシンプルさ | DSLによる高速開発 |
設定方法 | Resourceクラス (Ruby) | Dashboardクラス (Ruby) | DSL (Ruby) |
UI | モダン (Tailwind) | シンプル | シンプル |
学習コスト | 中〜高 | 低 | 中 |
柔軟性 | 高 | 中 | 中 |
ベストな用途 | リッチでモダンなUIが欲しい。複雑なカスタム機能が必要。 | シンプルさが最優先。Railsの作法から外れたくない。 | とにかく早くシンプルなCRUD画面を作りたい。 |
推奨される選択:
- スタートアップや見た目を重視するプロジェクト: Avo が最適です。初期投資(学習コスト)はかかりますが、得られるUXと機能性は非常に高いです。
- 保守的なプロジェクトや学習コストを抑えたい場合: Administrate が堅実な選択です。Rails開発者にとって馴染みやすく、安定しています。
- 個人開発やプロトタイピングで速度を重視する場合: Trestle が力を発揮します。少ないコードで素早く管理画面を立ち上げることができます。
まとめ
Railsの管理画面gemは、それぞれ異なる哲学と特徴を持っています。完璧なgemというものはなく、プロジェクトの要件やチームのスキルセットによって最適な選択は変わります。
本記事で紹介した3つのgemのデモサイトなどを実際に触ってみて、その感触を確かめてから導入を決定することをお勧めします。適切なgemを選べば、管理画面の開発コストを大幅に削減し、本来のアプリケーション開発に集中することができるでしょう。