mruby/CRubyの違い
Rubyのエコシステムには、複数の実装が存在します。その中でも最も広く使われているのがCRuby(MRI)であり、もう一つ注目すべき実装としてmrubyがあります。両者は異なる設計思想と目的を持っており、ユースケースに応じて使い分けられます。
CRuby (MRI - Matz's Ruby Interpreter)
CRubyは、Ruby言語の公式なリファレンス実装です。一般的に「Ruby」と言う場合、多くの場合はCRubyを指します。
- 目的: 汎用的なプログラミング言語としての利用。Webアプリケーション(Ruby on Rails)、スクリプティング、ツール開発など、幅広い用途で使われます。
- 特徴:
- 豊富な標準ライブラリと、RubyGemsによる膨大な数のサードパーティライブラリ(gem)エコシステム。
- 動的な性質が強く、柔軟なプログラミングが可能。
- JIT(Just-In-Time)コンパイラ(YJIT)の導入により、パフォーマンスが向上している。
- 比較的多くのメモリを消費する。
- 主な用途:
- Webアプリケーション開発 (Ruby on Rails, Sinatra)
- コマンドラインツール
- 汎用スクリプティング
mruby
mrubyは、Rubyの作者であるまつもとゆきひろ氏が設計した、軽量なRubyの実装です。
- 目的: 組み込みシステムや、他のアプリケーションへの組み込み。リソースが限られた環境での動作を想定しています。
- 特徴:
- 軽量・省メモリ: 必要な機能だけを選択してコンパイルできるため、バイナリサイズとメモリ使用量を小さく抑えられます。
- 組み込みやすさ: C言語のアプリケーションに簡単に組み込むことができます。
- サンドボックス: 実行環境を分離するサンドボックス機能があり、安全性が高い。
- バイトコード実行: スクリプトを事前にバイトコードにコンパイルして実行することができます(
mrbc
)。 - 標準ライブラリが最小限: CRubyに比べて標準ライブラリは少なく、必要なものは
mrbgems
という仕組みで追加します。
- 主な用途:
- IoTデバイスや組み込み機器
- ゲームエンジン(例: スクリプト言語として)
- ミドルウェア(例: Nginx, Redisの拡張)
- モバイルアプリケーションの一部
主な違いの比較表
項目 | CRuby (MRI) | mruby |
---|---|---|
主な用途 | 汎用プログラミング、Webアプリケーション | 組み込みシステム、アプリケーションへの組み込み |
リソース消費 | 比較的大きい | 軽量、省メモリ |
ライブラリ | RubyGemsによる豊富なエコシステム | mrbgemsによる選択的なライブラリ追加 |
実行モデル | インタプリタ実行、JITコンパイル | インタプリタ実行、AOT(事前)コンパイル |
バイナリ | Rubyインタプリタが必要 | スタンドアロンの実行バイナリを生成可能 |
設計思想 | 開発者の生産性("楽しさ") | 軽量性、ポータビリティ、組み込みやすさ |
どちらを選ぶか?
- Webサービスや一般的なアプリケーションを開発したい場合: 迷わずCRubyを選びます。Railsをはじめとする強力なフレームワークや豊富なgemを利用できます。
- メモリやCPUに制約のあるデバイスでRubyを動かしたい場合: mrubyが最適な選択です。リソースを節約し、必要な機能だけを搭載したカスタムのRuby環境を構築できます。
- 既存のC/C++アプリケーションにスクリプト機能を追加したい場合: mrubyの組み込みやすさが活きます。
まとめ
CRubyとmrubyは、同じRubyの文法を持ちながらも、その設計思想と得意な領域が明確に異なります。CRubyが汎用性と生産性を追求する一方で、mrubyは軽量性と組み込みやすさに特化しています。この違いを理解することで、プロジェクトの要件に最適なRuby実装を選択することができます。